食べるお茶「客家擂茶(はっかれいちゃ)」とは?歴史と魅力に迫る

「昔のお茶は食べものって本当?」

「擂茶って一体どんなお茶?」

今回紹介したいのは、客家擂茶(はっかれいちゃ)。

お茶といえば飲み物というイメージが強いですが、実は「食べるお茶」というユニークな文化が中国には存在します。

こんにちは、Chaswear茶思維ルイルイです。

擂茶は、中国発祥の伝統的なお茶で、客家(はっか)という漢民族の一支流が伝統的に作り続けてきたものです。
しかし、擂茶って聞いたことはあるけど、実際にどうやって作るのか分からない、という方も多いのではないでしょうか?

「擂茶を試してみたいけど、どう準備したらいいのか分からない」「地域によって違うって聞いたけど、何が違うの?」など、擂茶に興味はあるけど、詳細は知らないという方も多いと思います。

そこで今回は、中国茶芸師や日中茶文化の研究家としての私が、「擂茶についての知識」をお伝えします!基本的な作り方に加えて、「擂茶の歴史や由来」「地域ごとの違い」などもご紹介します。

ぜひ最後まで読んで、擂茶の魅力に触れてみてくださいね~

  • 擂茶の基本編 擂茶とは何か?その魅力と基本の作り方
  • 歴史編 擂茶のルーツ、擂茶文化を守る客家人を知る
  • 地域別の擂茶 広東梅州から台湾まで、地域ごとの違いを楽しもう
  • おまけ 擂茶の文化的意義とその多様性

まずは、擂茶とは何か?その魅力と基本の作り方から見ていきましょう!

この記事に執筆者

ルイルイ

中国国家高級茶芸師、茶席プロデューサー、文化発信インフルエンサー。茶文化と食文化の歴史に関心が深く、特に中華料理(広東料理)とお茶のペアリングを研究しています。日本茶道遠州流も習得しており、日本と中華圏の茶文化の比較や文脈を理解することに長けています。

擂茶とは?

お茶といえば「飲み物」という認識がほとんどだと思いますが、食べるお茶を知っていますか?「喫茶」という言葉がありますが、実は喫茶の「喫」は「食べる」という意味です!

擂茶(はっかれいちゃ)は、20種以上の大豆や雑穀などを焙煎し、すりつぶして粉末にしたものをお湯やミルクで溶いて飲む中国発祥のお茶です。中国では「毎日3杯の擂茶はあなたを98歳まで生かす」と言われるほど栄養価に優れた食べ物です。

擂茶は中国茶文化の一種であり、中国の客家地域の代表的な文化です。結婚式や誕生日、家の新築祝い、親友の集まりなど、さまざまな場面で擂茶が振る舞われます。擂茶は客家文化の重要な象徴であり、客家人がいるところには必ず擂茶が存在します。擂茶はすでに客家文化の重要な表れとなっています。

客家人とは?

客家(ハッカ)は、漢民族の一支流であり、独自の文化と言語を持つ集団です。もともと「客」という言葉には広東語で「よそ者」や「一時的な滞在者」といった意味がありました。歴史的には「東洋のユダヤ人」や「ロマ(ジプシー)」と称されることもありました。しかし、現在では「客家」という言葉は、誇り高いアイデンティティを象徴するものとなっています。

客家人移住の歴史

客家人の形成は、複数回にわたる大規模な移住によって進行しました。その主な移住についてはこのようです。

  • 最初の移住(4世紀頃):東晋時代、現在の河南省にあたる河洛地域から南方へ
    この時期、「八王の乱」が勃発し、その後も人民の反乱が続いたことで、西晋王朝の統治が大きく揺らぎました。この混乱に乗じて、北方から匈奴や鮮卑、羯、氐などの少数民族が侵入し、中原は戦乱に巻き込まれました。これにより、多くの漢民族が南方へ移動しました。
  • 2回目の移住(7〜10世紀):唐代
    唐朝が滅亡する際の混乱で、多くの人々が再び南方へ移住しました。
  • 3回目の移住(10〜13世紀):宋代
    宋朝時代、北方からの異民族の圧力により、さらに多くの人々が南方へ避難しました。
  • 4回目の移住(17世紀):明末から清初
    明朝が滅び、清朝が台頭した時期に、多くの漢民族が南方や海外に移住しました。
  • 5回目の移住(19世紀後半):清朝同治年間
    19世紀後半、太平天国の乱や客家戦争などの内乱により、多くの客家人が広東、江西、福建、台湾などへ移動しました。

これらの移住を経て、客家人は中原地域(現在の河南省や山西省)から広東、江西、福建、四川、広西、湖南、台湾、海南、香港など、広範囲にわたって分布するようになりました。

台湾における客家人は、第二大民族集団を形成しています。彼らの祖先は主に広東省粤東地域から来ており、少数は福建省からの移住者です。台北盆地や高雄美濃地区、桃園新屋地区、花東地区、台南楠西区、南投埔里などに広く分布しています。

擂茶の起源

擂茶は中国最古の喫茶方式であり、中国茶文化の源です。客家が形成される前の中原地域では、広く擂茶が作られ、飲まれていました。戦乱や移動中で物資が不足している中、友人をもてなすために、家にあった少量の穀物を炒って少しの茶葉とともに擂缽(すりばち)で細かく擂り、熱湯で淹れて擂茶が作られました。その結果、香りが立ち上り、少量の糧食が工夫によって飢えと渇きを癒す擂茶となりました。擂茶には五穀雑穀と茶葉が含まれているため、「喫茶」や「食茶」とも呼ばれます。

「三生茶」「三生湯」

ある説によれば、客家擂茶の歴史は約1800年前の三国時代にまで遡ります。当時、蜀の将軍である張飛が武陵(現在の湖南省)を攻めた際、兵士たちは疫病で弱り、進軍が困難になりました。そこで一人の草医が「生米」「生姜」「生茶」の3種を使った擂茶(別名「三生茶」または「三生湯」)を提供しました。これを飲んだ兵士たちは元気を取り戻し、この秘方が広まりました。

擂茶と客家文化

元々、擂茶は客家人だけのものではありません。中国の元末(14世紀末)から明初(15世紀初頭)になると擂茶は他の地域で次第に消え、客家人が山奥に長く住み、世代を超えて擂茶の習慣を伝え続けたため、客家文化の重要な象徴となりました。

茶は客家人にとって重要な経済資源であり、山文化の象徴でもあります。中国茶文化の歴史を振り返ると、贛南(江西省南部)、閩西(福建省西部)、粵東(広東省東部)、台湾などの山岳地域には、客家人の分布するところに多くの茶の生産と輸出がありました。

過酷な環境の中で生き抜くために、客家人は山の資源を利用して生活していて、地元の山菜や野菜を取り入れ、工夫して作られるため、地域ごとに異なる風味を持っています。生活における知恵と工夫の代表的な例になりました。

生活の中でも多様な場面でつかわれます。

例えば、敬神崇祖の「神茶」、友人をもてなす「待客茶」、結婚式の「新娘茶」…日常的に喉を潤うお茶、茶亭での奉茶など、さまざまな場面で喫茶の習慣が根付いています。また、ことわざには「無擂茶不成客」(擂茶がなければ客家になれない)というものもあるほど、擂茶はおもてなしの一環として使われています。

客家移民における地域の違い

客家擂茶は、客家人の移住と客家人の移動と共に、新しい故郷にも擂茶の文化が根付き、地域や家族によって異なるレシピや材料が用いられ、多様化しました。さらに第二次世界大戦後、客家擂茶は広東省から台湾の客家地域に伝わりました。当時の台湾では物資が乏しく、客家人は擂茶の材料を使って不足していた乳を代替し、乳幼児の主食としました。現在では、北埔老街などの観光地で客家擂茶が観光客に人気のある美食の一つとなっています。特に、チベットの酥油茶の要素を取り入れた北埔擂茶は有名です。

その後客家人は擂茶をマレーシア、シンガポールなどにも広めました。地域によって擂茶の作り方、原料、味は異なります。

擂茶の種類

現在、擂茶には主に以下の種類があります。

1.広東梅州擂茶

  • 材料:ピーナッツ、ゴマ、緑茶
  • :香ばしく、やや苦味がある
  • 特徴:広東省梅州地域では、伝統的な行事で飲まれることが多く、香ばしい風味が特徴です。緑茶が使われるため、さっぱりとした味わいもあります。

2.福建永定擂茶

  • 材料:ピーナッツ、ゴマ、茶葉、塩
  • :香ばしく、塩味が効いている
  • 特徴:福建省永定地域の擂茶は、塩味が加わっており、農忙期や祝祭期間に飲まれることが多いです。塩味が効いているため、疲れた体に元気を与えます。

3.江西贛南擂茶

  • 材料:茶葉:新鮮な茶葉、もち米、ゴマ、大豆、ピーナッツ、お塩、複数の薬草類、高山茶油(必要に応じて)
  • :茶葉の甘み、芝麻や花生の香ばしさ、生姜の辛味が特徴です。
  • 特徴:江西省贛南地域では、婚礼や寿宴、春節などの祝い事で飲まれます。米を炒って使用するため、甘くて香ばしい風味が特徴です。

4.台湾新竹擂茶


  • 材料:炒った米、紅豆、緑豆、ゴマ、茶葉
  • :豊かな風味と穀物の香り
  • 特徴:台湾新竹地域の擂茶は、穀物や豆類を豊富に使用しているため、栄養価が高く、風味豊かです。祭祖や豊作の感謝祭で飲まれることが多いです。

5.星馬(シンガポールとマレーシア)の客家「雷茶飯」

  • 材料:ピーナッツ、ゴマ、茶葉、塩、炒飯、緑の食材(四角豆、ニラ、木の芽、ニンニクの微塵切りなど)
  • :香ばしく、複雑な風味
  • 特徴:星馬地域では、擂茶は「雷茶飯」として進化し、豪華な料理の一部となっています。緑の食材や炒飯とともに提供され、食事としても楽しめるようになっています。後殖民・華人移民の影響を受けたこの料理は、健康的な緑色食文化として認知されています。


擂茶の基本的な作り方

擂茶の「擂」は「研磨」を意味し、擂り潰してから飲むことを指します。基本の道具は、陶器製の擂鉢(れいばち)と木製の擂棒(すりこぎ)です。抹茶は、緑茶を粉末にしたものに湯を加え撹拌した飲料で、擂茶は緑茶の茶葉、ピーナッツ、ゴマなどを擂鉢に入れ、丁寧にすり潰した後にお湯を加えます。

さらに、お米の粒も加えることで、擂茶が完成します。抹茶には泡が立ちますが、擂茶は様々な具材を加えるため、少しペースト状になり、満腹感が得られる健康維持にも良い飲み物です。

擂茶の用具:

  • 擂缽(れいはち):手で引いた陶土で作られたもので、内側に放射状の溝紋があり、擂棒との摩擦で材料を細かい粉にします。
  • 擂棒(れいぼう):グアバや油茶樹など、堅固で無毒の木材を使用します。

伝統的な擂茶の材料

  • 茶葉、ゴマ、ピーナッツ、玄米

基本的な製法

  1. 材料の準備:ピーナッツやゴマ、米などを炒める
  2. 擂製:これらの材料をすり鉢で擂って粉末状にする
  3. 沖泡:熱湯を加えて混ぜ、茶を完成させる

広東梅州では伝統的な行事で飲まれる香ばしい擂茶、福建永定では塩味が効いた擂茶、江西贛南では祝い事に使われる甘い擂茶、台湾新竹では穀物の風味が豊かな擂茶、そして星馬地域では料理として発展した「雷茶飯」として楽しむことができます。それぞれの地域の擂茶は、客家文化の多様性と適応力を象徴しています。

まとめ

擂茶は中国茶文化の重要な部分であり、養生保健や社交、客をもてなすための茶点として広く使用されています。客家地域では、「一家擂茶百家香」という諺があり、結婚式や誕生日、家の新築祝い、親友の集まりなど、さまざまな場面で擂茶が振る舞われます。

同時に、擂茶は客家人の歴史と文化を象徴するものであり、彼らの生活に密接に結びついています。地域に夜多様な風味と用途は、客家人の創造力と適応力を物語っています。

擂茶は、客家人の移住の歴史と共に発展し、その地域の自然条件や文化的背景に適応して多様化しました。擂茶を通じて、客家人の生活と文化を垣間見ることができます。

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